推しキャラ


格安通販で買ったゲームコスプレの衣装に袖を通し、これまた格安通販で求めたウィッグを恐る恐るかぶり、そして私は、油性マジックを片手に鏡を見つめてこう呟きました。「……これってちゃんとコスプレになってる?元キャラと全然違わない?衣装の素材感とか体格とか、あと顔面とか」

初心者の自分は思いを馳せました。もっと潤沢な資金があれば、クオリティの高い衣装を購入できる。いや購入どころか、自分のサイズを採寸して体格に合った衣装を一から仕上げてもらうことだってできる。

現に有名コスプレイヤーと称される方々は、アニメやゲームから抜け出してきたとしか思えないようなリアルな小道具を手に、縫製のしっかりした衣装を纏っています。

「あれが本物のコスプレイヤーなのか……所詮、お金のかけられない、勢いだけの自分に本物のコスプレは無理なのか……」私は肩を落とし、失望の淵に沈みました。漂ってくる衣装のナイロンの香りと油性マジックの匂いが落胆を助長します。

が、沈痛な面持ちでもう一度鏡をちらりと見たとき、ふとこう思ったのです。「あっ、推しキャラが悲しそうな顔してる!」そう、私の脳は鏡に映ったモノを、「コスプレに失敗した女」でなく、一瞬であれ「推しキャラ」と認識したのでした。
そして、天啓というべき発想が降りてきたのです。

「幸せとは何か」という命題について、過去の偉人はこう答えました。“あなたが幸せだと思えば、それが幸せなのです”。ではコスプレとは何か、僭越ながら私が答えましょう。あなたがコスプレだと思えば、それはもうコスプレなのです。かけた費用にも時間にも、そして客観的なクオリティも関係なく、衣装をまとったその瞬間からあなたは該当キャラの写し絵なのです。